未来のかけらを探して

3章・過ぎた時間と出会いと再会
―39話・親子初対面―



くろっちの帰りを待つ間、長話につき合わせたからとロビンがおやつを振舞った。
軽食用に部屋に置いてあったクッキーだから、量は多くない。
1人2,3枚がいいところである。
もっとも、それでは足りないのは火を見るより明らかだ。
「えー、こんだけなノー?」
「さみしいよぉ。」
「あのなー、ちょっとしかないんだから我慢しろよ!
後で外に行ったらもっと腹に溜まるの買ってやるから。な?」
案の定パササとエルンから苦情が出た。
しかし無い袖は振れない。
ここにはキッチンも食材も無いから、ちゃちゃっと男の料理というわけにも行かないのだ。
「しょうがないなー。じゃあ約束ダヨー!」
大きな態度ながらもとりあえず引いて、
パササは二口でクッキーを平らげた。横のエルンもほぼ同時にぺろりだ。
いつもの事とは言え、ルビーも呆れている。
“お前らちょっとは遠慮しろ……。”
“はいはーい、食い意地の塊には無理だと思いまーす。”
「2人ともそんなにお腹空いたのか?」
アルセスはエメラルドの茶々をさっくり無視して、2人にたずねた。
「だっていっぱい歩いたシー。」
「ぼくもお腹空いてるしねー……。」
「じゃー、しょうがねーか。」
やり取りを横で聞いて、ロビンはあっさり諦めた。
子供の中で一番食事量が控えめなプーレがお腹が空く頃合いなら、大食らいは推して知るべし。
再会早々、下手すればロビンは大出費を覚悟しなければならなくなった。
―あー……おれの給料、相変わらず薄給なんだけどなー。
この出張の手当てに期待するっきゃないか。トホホ……。―
とは言っても、一介の下っ端にそう高い給料は望めない。
今月は慎ましく過ごさないと厳しい予感がひしひしとしてきた。
仕事後に飲みに行く回数でも減らせば大したことはないが、
小市民のささやかな楽しみを削るのはちょっと悲しい。
「ところで、さっき言ってた大使って何しに来てるんだ?」
「ここの王様に、協力してくれないかって頼みに来てるんだよ。
もちろんただってわけには行かないから、
代わりにどうするってのも相談するんだって聞いたなー。
細かい事は、おれには難しくてさっぱりだけどな。」
「おねがいって何を?」
「だからさっき言った、人間とモンスターで協力して戦おうぜーって奴。」
「そんなの出来るノ?」
「さー……。
ここの王様はセシルで、あいつ自身はすごくいい奴なんだけどな。
お前らも一回会ってるから、ちょっとは知ってるだろ?」
「セシル……あ、飛空艇に乗せてくれたお兄さんか!」
「わぁ〜、知らない間に出世してるぅ〜。」
「王様と知り合いなんて、すごいなお前ら……。」
「親切なお兄ちゃんなら、大丈夫じゃないノ?」
「どうかなー。王様は、周りもいい奴じゃないといい事やるのが大変なんだよ。」
「難しいんだね。」
「そ。ま、そんなのはおれ達ぺーぺーの庶民の考えることじゃないし。
……お、くろっち帰ってきたかな?」
ドアの向こうから足音が近づいてくる。
ガチャンと再びドアが開くと、予想通りくろっちが居た。
「許可は下りたよ。夕暮れには戻るようにだって。」
「やったねぇ〜♪」
「夕方かあ、まあしょうがねーよな。」
出先で脱走されても困るだろうし、そこは仕方ない。
「そういえば、さっき町でロビンの妹って人に会ったよ。」
「えっ、マジか?!」
「うん。バカ兄貴ー!だっテ。」
「マジか……フルボッコ覚悟しとくかな。」
“一体どんなパワフルな家庭なんだ。”
“スリルとサスペンスに溢れた、バイオレンスなスイートホーム?
俺のゴシップ魂がうずくんだけど。”
「それはないと思うぞ……。」
アルセスは引きつりながらそっとつっこみを入れた。
そんな家庭だったら、ロビンはフルボッコどころか首チョンパだ。
しかも、年々家族が減っていきそうで恐ろしい。
それだけで一本小説になって売れそうだ。もちろんサスペンス物かホラー物で。
「ここからだったら割と近いんだよな。
お前らが大好きなお菓子もあるし、さっと行ってこようぜ。」
幸い耳に入らなかったらしく、ロビンは平然と話を続けている。
「さっきも行ったから、あのお姉ちゃんびっくりするかも。」
「気にすんなって。ほら、こーい。」
早く行かないと、どんどん門限までの時間が短くなってしまう。
ロビンに急かされながら全員城を後にした。




―ロビンの家―
先程は庭の方にあるチョコボ小屋にしか入らなかったが、今回は玄関から屋敷本体にお邪魔する。
初めてちゃんと見た正面のドアは、一般家庭の家よりも高級そうな造りだ。
「なんか、ロビンちって感じしないナー。」
呼び鈴を鳴らしてから待つ間にロビンとドアを交互に見比べて、パササが唐突にそう言った。
「何でだよ!ったく、失礼だよなーお前。」
彼相手にぶつくさ言っていると、
城を出る前に黒チョコボの姿に戻っていたくろっちが、ふうっとわざとらしいため息をついた。
「(君は豪邸住まいの風格とは無縁だからね。)」
「おいくろっち、ドサクサ紛れにお前まで!」
確かに彼自身、自分が大商人の息子というよりもその辺の家の息子っぽいと思っているが、
相棒にまでこういわれてはかなわない。
「ロビン、言ってる間に妹さん来たぞ。」
「あ。」
ドアはロビンが怒鳴っていて気づかなかった間に開いていた。
そして開いたドアの真ん中に、先程プーレ達が会った件の妹がいる。
兄の顔を見た瞬間に営業スマイルでもする気は失せたらしく、目が怒って口は愛想笑いというシュールな顔になっていた。
「ハロ〜。お久しぶりー、馬鹿兄貴!」
「いきなりそれかよ!故郷にやーっと帰ってこれた兄に対して聞く口じゃねーだろ?!」
「連絡の1つもよこさないで、ふらーっと帰ってきた奴なんて馬鹿で十分でしょ!
この親不孝!あたし達がどれだけ心配したと思ってんの!」
「れ、連絡しなかったのは悪かったけどな!
周りにバロンまで手紙持ってってくれる奴がいなかったんだから、しょうがねーんだって!」
「あーそう。ま、言いわけは後でね。
さっきうちに来た子達を連れて来たんなら、おもてなししなくっちゃ。
今お客さんの部屋はお父さんが1つ使ってるから、気になるんなら自分の部屋に連れてってよ。」
「いやー、せっかく連れてきたんだし、あっちこっち見せて回っとく。
用意できたら部屋に置いといてくれよ。」
「はいはい。じゃあみんな、ゆっくりしてってねー。」
ひらひら手を振って、ロビンの妹は身を翻して去っていった。
多分台所へ向かったのだろう。
「じゃあ、まずはチョコボ小屋に行くか。くろっち、嫁さんと会えるぞー!」
今度はロビンとくろっちに伴われて向かったチョコボ小屋。
プーレ達と先程話していたくろろは、
わらでふかふかの房の中で2羽の子供共々座っていたが、くろっちの姿を見るなりすぐに立ち上がって出迎えた。
「(まあ、あなた……!ロビンさんも!
お帰りなさい、ずっとみんなで待ってたのよ!)」
「(ただいま、くろろ。ずっと長いこと心配かけたね。)」
「(あなたこそ、よく無事で……本当に良かった。)」
まさに夫婦の感動の再会。
お互い胸が一杯なのか言葉は多くないが、傍で見ているプーレ達も素直に2人が会えてよかったと感じる光景だ。
人間だったら、しばし黙って抱擁と行きそうないい雰囲気である。
そこに、不思議そうな顔をした子供の1羽がくろろを見上げてこう聞いてきた。
「(ママ、この人は?)」
「(お父さんとロビンよ。さあ、お帰りなさいって挨拶して。)」
くろろが子供達に促すと、子供達は素直にうなずいた。
「(うん。えーっと……パパ、お帰りなさい。)」
「(わー、この人だったんだ!お帰りパパ、初めまして!)」
「(ただいま。初めましてだね、名前は?)」
初対面なので少し他人行儀だが、子供達に歓迎されたくろっちはひとまずほっとした。
おじちゃん誰とか、そういう一番悲しい展開も覚悟してきていたから、
くろろの気遣いが本当にありがたい。
「(くろぴー!)」
「(くろろんー。)」
元気に2羽が名乗りを上げると、ロビンは苦笑いになる。
「あーやっぱりな……これ系で来ると思った。」
「(はは、やったのはカナリアだね。)」
名付け親が分かりやすいネーミングには、くろっちもロビン同様苦笑いするしかない。
可愛らしい名前だが、チョコボ仲間にはちょっと奇妙に聞こえるらしく、
口には出さないがプーレが不思議そうな顔をしている。
その隣で、聞きなれない名前にパササが首をひねっていた。
「カナリア?」
「さっき居たおれの妹の名前。うち、兄弟みんな鳥の名前なんだよな。」
「そうなの?」
兄弟が居るのは聞いていたが、それはプーレ達は初耳だ。
「そうそう。一番上の兄貴がホークで、二番目の兄貴がカイト。
で、三番目のおれがロビンと来て一番下の妹がカナリア。」
ホークは鷹、カイトはとび、ロビンはコマドリ。
確かに全員鳥の名前をもらっている。親のセンスがいいのか、なかなか響きがいい。
「父ちゃんとか母ちゃんの趣味なのか?」
「おう。うちの親父もお袋も、鳥が大好きなんだよ。
特に好きなのを上から順に付けたんだと。」
プーレ達は気がついていないが、実はこの家の調度品や食器は鳥の意匠を使ったものが多い。
生粋の鳥好き夫妻が取り仕切る屋敷というわけだ。
「チョコボは〜?」
横からエルンが口を挟むと、無いとロビンが首を横に振った。
「止められたらしいぜ。子供がからかわれるって。」
「何でかなぁ?」
別に変なものでもないのにと、エルンは不思議そうに首を傾げている。
だが、アルセスはその理由がちゃんと分かったので説明する。
「金髪だったら、本物みたいだって言われちゃうじゃないか。
一緒にされたら困っちゃうって。」
「そっかぁ〜。」
確かにチョコボじゃないのにチョコボ扱いされたら困るかもと、とりあえずエルンは分かったようだ。
素直に納得してうなずいている。
しかしそれをよそに、よからぬ事を考える無機物があった。当然エメラルドだ。
“くせっ毛で短髪だとなお完璧かなー。”
“完璧でなくて何よりだと俺は思う。”
彼には面白くても、ルビーにはちっとも面白くない。
「それにしても、かわいいなーお前の子供。親父みたいにひねくれんなよ?」
「(君ねぇ……。)」
『(??)』
くろっちはロビンを睨んでいるが、台詞の意図を分かっていない子チョコボ達はそろって首を傾げていた。
心配しなくても、ロビンが余計なことさえしなければ彼らは素直に育つだろう。
このままだと、くろっちが対ロビンに毒舌になるような教育を施すかもしれないが。
「ところでサー。」
「どうかした?」
突然何の話だろうと思いながら、プーレはパササの話を聞く。
何か忘れていたことでもあっただろうか。
「くろっちお兄ちゃんって、今ヴィボドーラでお仕事してるんデショ?
どうすんのかなーッテ。」
「う〜ん、どうするんだろうね。」
このままだと仕事が終わったら、ロビンと一緒にまたバロンから離れてしまうだろう。
その辺りをどうするのか、まだこの家に居るうちにちょっと聞いてみることにした。



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章のテーマどおりの展開です。くろっち一家の団欒で終わってますが。
出しそびれていましたが、はきはきしたロビンの妹の名前もチラッと。
ちなみに彼の家のティーセットは鳥の模様のしかないとか、そんな感じですね。